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靖 伊藤

AHPコンピテンシーコラム第55話

日常で気がついたコンピテンシー。 人は追い詰められた時に、コンピテンシーをフルに発揮することがあります。今回は、以前、ハワイで起こった飛行機事故で、機体の屋根を吹き飛ばされながら、ほぼ全員を乗せて近隣の空港に生還した機長の話です。

彼は事故発生から20分弱の間に様々な厳しい判断をすることになりました。まず、乗員が正常に呼吸をできるように、できる限り速やかに高度7000mから高度3000mに高度を下げなければなりませんでした。しかし、マニュアル通りの下降速度では機体が空中分解することを予測し、自らの経験に基づき、ぎりぎりの下降速度を瞬時に割り出しそれを実行に移しました。また、着陸に際しては、寸前になって片側のエンジンが停止したため、両翼にあるブレードをマニュアル通りの角度にして減速すると、もし一回で着陸不能な場合に再び上昇できない可能性があると判断し、ブレードの角度をより緩やかにすることで、速度を緩めずに着陸体勢に入り、着陸寸前に通常とは逆に逆噴射の出力を増して滑走路ぎりぎり一杯での着陸に成功したのです。マニュアルは平常時を想定して作られています。が、緊急時にはそれに加えて考慮すべき様々な点があり、彼はそれを全て勘案して無事生還を果たしたのです。

 それでは、彼がこの危機に際して発揮したコンピテンシーを考えてみたいと思います。まず、独自の下降速度の割り出しとブレードの角度を瞬時に割り出し実行したのは、自分の業務環境において、現状や問題などを正確に理解、整理、分析することで、自分としての対応策を考え出していく分析的思考力で「状況や環境の分析から潜在的なものをも見つけ出し、実行可能な対応策を自分で考え出している」レベルであると言えます。また、片側のエンジン停止を発見し、マニュアル通りに減速すると再び上昇が出来ない可能性があることを考えて自らの経験に基づいて角度を変えたことは、状況に応じて、「従来通りの会社の方針や戦略をも、根本から考え直し修正するくらいの柔軟な発想を展開し、可及的速やかに行動に移している」レベルの柔軟性を発揮しています。そして、これらの判断を瞬時に行い実施したことは、「全社の業績成果の向上のため、チャレンジングで且つ現実的な目標を設定し、自分の目標のみならず、その全ての達成のためにいかなる困難があっても諦めることなく、あらゆる手段を駆使しながら取り組んでいる」という最高レベルの達成志向力によるものと言うことができるでしょう。

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