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靖 伊藤

AHPコンピテンシーコラム第109話

今まで2回に亘って、相手との信頼関係を築き、こちらの考えている事を理解し、納得してもらい、動いてもらう為の「論理」を支えるものについてお話してきました。

モチベーションの要素としては、「その気になる」『覚醒』と「その気になり続ける」『持続』があります。今までお話ししてきた2つの「理」は『覚醒』にとって非常に重要になるわけですが、コミュニケーションの取り方次第で、折角『覚醒』したものが持続できないことがあります。『持続』の為にも2つの『理』を常に意識して行動することが肝要です。

私の歴史を振り返りますと、ずっと記憶に残っている方には、お話ししてきた事を意識的か、無意識にするかは別として、実践されている方が多いように感じます。

私が商社勤務の3年目にアメリカへ出張した際にお世話になった先輩(と言っても上司に近い方ですが)には、時には厳しく叱責されましたが、私の心情をよく察知されており、落ち込んでいると、さっと手を差し伸べて頂きました。叱責も感情的なものではなく、理論的なものが多く、場面としては、私自身が浮ついた気持ちで仕事をしていたり、成功した事で天狗になっていたりした時に、その点を明確に厳しい言葉で叱責されたという記憶があります。一方、一所懸命に努力した結果として失敗した時は、結果についてと言うよりは、どのように行なったか、プロセスについて、こちらの気付きを引き出すような指摘を頂いたと感じています。また、話して頂く内容は、常にその時だけではなく、先の事を考えた内容であり、一つ一つの施策も次の成果に繋がっていくもので、「なるほど、このようにすれば上手くいくんだ」と納得して行動に移していました。残念ながらその方は数年前に亡くなりましたが、商社を辞めてから長年にわたりお付き合いをさせて頂きました。

会社の中で仕事をして行くためには、一人だけでしようとすると、ほんの小さな事しか出来ません。真の仕事をするためには、様々な他人を巻き込む必要がありますが、それらの人たちとの間に真の信頼関係を築いていく事が必要と考えます。

ある経営者の方とモチベーションアップに関する研修について話をしている時に、「モチベーションアップが取りざたされるが、会社としてきちんと方向性を出していれば、普通の人間はモチベーションを保って仕事ができるのではないか」と言われた事があります。それに対して、私は次のようにお話ししました。

「モチベーションアップと言うと、やる気のない社員を何とかして働く気にさせる事を考えられるかもしれません。しかし、モチベーションアップを『動機付け』、つまり、相手を心を動かし、行動に繋げるものと考えた場合、その対象はメンバーだけでなく、上司やお客様、他部署等全方位のステークホルダーになります。真のモチベーションアップとは、会社のビジョンを実現する為に行うべきことを全方位のステークホルダーを巻き込んで行う為に、相手をその気にさせることで、その際には、相手の『自律的意欲付け』に関わることにきちんと理解して対応するという事をリーダーと言われる人たちに理解して頂きたいと考えています。」

以前、ソフトブレインの創業者である宋文洲氏の『部下のモチベーションを上げるな』と言う書籍を読んだ事があります。「変なタイトルだな」と思いますが、よく読んでみると、「常に他律的意欲付けをしないとやる気の上がらない部下を要らない。人には某かの自律的意欲付けの要素があるので、それを捉える事がモチベーションに繋がる」と言う主旨のものでした。

モチベーションアップのセミナーには多くの参加者が集まりますが、参加者の方の当初の思考はどちらかと言うと“やる気のない社員をどのようにしたら良いか”と言うものですが、話を聞いて頂いた中には上述の点を非常によく理解して頂く事が多々あります。「モチベーションアップ」=「やる気を上げる」ではなく、「モチベーションアップ」=「他人を巻き込み成果を上げる」と考えるのが良いのではないでしょうか?

 

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