グローバル人材に求められる要件として、『気が利く』ことが挙げられます。この『気が利く』というのは、「相手と自分の文化の違いを理解して、皆が心地よいパフォーマンスを出せる環境を作り出すことができる」ことです。これはグローバル人材に限らず、如何なる人材にとっても重要な要件であると思います。
以前、東京で『気が利く』人、Aさんに遭遇しました。Aさんは、とある麺類のセルフサービス店の店員さんで、役割は明確には分かりませんが、調理以外の業務一切を担当しているようでした。この店はセルフサービスなので、お客様は注文したものを自分で座席に持っていき、終わったら返す事になっていますが、注文したものの一部で時間がかかるものについては、Aさんが運んできたりしていました。また、食べ終わったお客様が食器を持って行こうとすると、さっと寄ってきて、「ありがとうございます。」と言って食器を載せたお盆を受け取っていきました。それだけにとどまらず、調理の人が必要とするものをタイミングよく手渡したりもしていました。私が食事を済ませ席を立った時、Aさんは他の仕事をしており、お盆を取りに来る様子はありませんでした。私は「Aさんは忙しそうなので、来ないのだろう」と思いながら、脱いでいたマフラーとコートを羽織り、鞄を抱えてお盆を運んで行こうとしたところ、Aさんがさっと現れ、「ありがとうございました」とお盆を持って行ってくれたのです。
さて、ここで、Aさんが発揮したコンピテンシーにフォーカスしてみたいと思います。
Aさんが発揮していたコンピテンシーは、「直接に顧客に接し、顧客が求めているものを、敏感に且つ正確に把握し、対応していく能力」である『顧客志向力』であり、常にお客様やメンバーの様子をそれとなく観察し、それに素早く対応する行動は、「直接多くの顧客に接することで顧客ニーズの一般的な変化や兆候を敏感に感じ取り、その変化や兆候への対応を継続的に考案し自ら実行している」レベルであると考えます。このような行動はマニュアル化により、他の店でも見られる行動です。ただ、それはまだ店を出る支度も出来ていないのに、食器を取りに来るといった、自分本位の行動であり、そのようなときは却ってお客様は焦ってしまいます。一方、Aさんの場合は、お客様の様子を見極め、絶妙のタイミングで食器を載せたお盆を取りに来てくれました。このようなコンピテンシーに裏打ちされた行動は、お客様に快適さを感じて頂き、提供する商品ではそれほど差がなくても、提供する雰囲気で差を感じて頂くことで、リピーターを増やすことが出来るのではないかと考えさせられた次第です。
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