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靖 伊藤

AHPコンピテンシーコラム第37話

日常で気がついたコンピテンシー。 今回は、再び絶体絶命の危機から生還した飛行機の機長のお話です。

この飛行機はある空港に着陸寸前に、管制官により後輪が両方とも出ていないことが確認され、すぐさま、機長にその旨が連絡されました。機長はこのような状態で着陸することがかなりの危険を伴うことを認識しながらも、なんとしても機体を無事に着陸させようと決意しました。機長はまず、現在の位置から一度3000メートル急上昇した後、そこから一気に急降下して車輪を出すという作戦を考え、その旨を乗務員・乗客に連絡し、それを繰り返すことで、片方の車輪を出す事が出来ました。しかし、もう一方の車輪を出すことができず、燃料のタイムリミットが迫ってきました。そこで、次に、機長は着陸した衝撃で車輪を出すという「タッチアンドゴー」を2度トライしましたが、やはり車輪は出すことはできず、最終手段として片輪着陸をすることを決断しました。この成功確率は非常に低く、最悪の事態も予想されましたが、機長は機内放送で乗客に向けて、片輪着陸する旨を告げ、「でもご安心下さい。乗務経験20年の私が行います。皆さんにご迷惑をおかけしましたので、今日のディナーは私がご馳走します」と機内放送を行って乗客を励まし、死傷者ゼロという奇跡的な着陸に成功したのです。

さて、この機長はどのようなコンピテンシーを発揮したのでしょうか?まず、車輪を出すために急上昇と急降下を繰り返す事や「タッチアンドゴー」を行ったことは「業務遂行や問題解決に際し、既存の複数の方法を持ちそれを状況に応じて柔軟に使い分けている」レベルの柔軟性です。

そして、そのような困難な状況の中で、これらの操縦が出来たのは「現在の業務に必要な最低限の知識を持ち実際に仕事で活用しており、更に今必要なレベル以上の専門的な知識を自ら拡大する努力をし、それによって身についた専門性を実際に仕事で使っている」レベルの専門知識拡大性向です。また、片輪着陸に先立ってこのような乗客への呼びかけを行い乗客に希望を持たせて臨んだ事は「誰もが強いストレスを感じるような場面でも、それを前向きに捉え、むしろエネルギーとしている」レベルの自制力です。そして、これらの行動を駆使して奇跡的な生還を果たしたのは「チャレンジングで且つ現実的な目標を設定し、自分の目標のみならず、その全ての達成のためにいかなる困難があっても諦めることなく、あらゆる手段を駆使しながら取り組んでいる」という最高レベルの達成志向力といえるのではないでしょうか。

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